ロボットSIerという事業——立ち上げと収益構造

SIer Business·事業・投資·約12分·全10ページ
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エグゼクティブ・サマリー

  • ロボットSIerは「引き合いが多いのに利益が出ない」典型的な事業構造を持つ。原因は需要不足ではなく、一品一様の受託が積み上がり、案件ごとにエンジニアが張り付いて、売上が伸びても粗利率が伸びないことにある。
  • 収益は「機器再販・エンジニアリング・保守・運用」の4層に分解して設計する。機器再販は粗利率が薄く、エンジニアリングは人に依存し、利益の質が高いのは保守と運用のストック収益である。ここを最初の契約書に組み込めるかどうかが、3年目以降の体力を決める。
  • 標準化は「同じ機種を売ること」ではなく「同じ手順・同じ部品・同じ試験項目を使うこと」である。ドメインを絞って再現性のある構成をつくれば、二件目以降の工数は目に見えて落ちる。絞らずに全部受けると、いつまでも初回工数のままになる。
  • 見積を外す原因は技術ではなく前提条件である。ワークのばらつき、既存設備との接続、現場の受入試験の基準、稼働開始後の調整——これらを見積の但し書きに書けているかで、赤字案件になるかどうかがほぼ決まる。
  • 一社で全部やろうとしないほうが速い。メーカー、周辺機器、システム側、現場運用。すべてを内製した会社は立ち上がりが遅い。自社の強みを一層に定め、残りは組む前提で事業計画を書く。

ロボットSIer(システムインテグレータ)は、人手不足を背景に需要が拡大している一方で、事業として安定させるのが難しい業態である。案件は取れる、技術者も採れる、それでも利益が薄い——この状態から抜けるには、技術力の話ではなく事業構造の話をする必要がある。本稿は、ロボットを販売しない中立の立場から、SIer事業の立ち上げと収益構造の設計を整理する。既にSIerとして活動している事業者、装置メーカーや商社からの参入を検討している事業者、そして発注する側でSIerの経済性を理解しておきたい方に向けている。

1. なぜ儲からないのか——構造の解剖

引き合いが多いのに利益が出ない。この現象には、はっきりした構造的な理由がある。

第一に、案件がすべて一品一様になる。 同じ「パレタイジングの自動化」でも、ワークの形状、パレットのパターン、周辺のコンベア、天井高、既存設備の制御方式が現場ごとに違う。結果、二件目でも一件目とほぼ同じ設計工数がかかる。売上は積み上がるが、粗利率は初回のまま動かない。

第二に、利益がエンジニアの人数に線形でしか結びつかない。 受託エンジニアリングは、稼働できる技術者の数が売上の上限を決める。採用が追いつかない領域なので、この上限は簡単に外れない。

第三に、機器再販の粗利が薄い。 ロボット本体・周辺機器の再販は、金額は大きいが利幅は限定的である。売上規模だけを見ていると、粗利がほとんど出ていない構造を見落とす。

第四に、導入後の工数が無償で吸い込まれる。 稼働後の微調整、段取り替えの追加ティーチング、レイアウト変更への追随。契約に含まれていないのに現場から依頼が来て、断りにくくて対応する。これが年間で積み上がると、既納案件が新規案件のリソースを食う。

第五に、検収条件が曖昧なまま着工する。 「安定して動くこと」という受入条件は、いくらでも延ばせる。最後の詰めに数ヶ月かかり、その間の人件費が丸ごと利益を削る。

これらは技術の巧拙ではなく、契約と標準化の設計で決まる。

2. 収益4層モデル

事業計画は、次の4層に分けて考えるとよい。層ごとに、利幅も、必要な能力も、伸ばし方も違う。

内容収益の性質押さえどころ
①機器再販ロボット本体、ハンド、センサ、架台、安全機器フロー・低粗利金額は大きいが利益源にしない。在庫リスクを持たない
②エンジニアリング構想設計、機械設計、制御・ティーチング、据付、立ち上げフロー・中粗利人数上限がある。標準化で工数を削るのが唯一の打ち手
③保守定期点検、消耗品、遠隔監視、故障対応、SLAストック・高粗利初回契約に必ず組み込む。後から売るのは難しい
④運用稼働改善、追加ティーチング、教育、RaaS的な提供ストック・高粗利顧客の内製化と競合する。役割分担を明示して設計する

立ち上げ期は①②に偏るのが自然である。問題は、そこから③④に移せるかどうかである。③保守は、初回の契約時に組み込まなければ、あとから有償化するのがほぼ不可能になる。無償対応が既成事実になった顧客に、翌年から保守契約を求めるのは実務上かなり難しい。初回見積の段階で、保守を別行として明示し、金額を入れておく。

④運用は、顧客の内製化方針とぶつかりやすい領域である。顧客が自分でティーチングできるようになりたいのか、任せたいのか。ここは提案時に確認して、教育を売るのか運用を売るのかを分けて設計する。人材育成の観点はロボット・AI人材の育成と内製化に整理している。RaaS型の提供を検討する場合は購入かRaaSかを参照されたい。

目安としての構成比

具体的な数値は事業者ごとに大きく異なるため断定はしないが、設計の考え方としては次のように置く。売上の大半を①機器再販が占め、粗利の大半を②③④が生む——この分離を、月次の管理会計で必ず見えるようにする。売上ベースの管理をしていると、粗利が痩せていることに気づくのが遅れる。受注時に、案件ごとの層別粗利を必ず出す。これができていない会社は、どの案件が儲かっているのかを構造的に把握できない。

3. 標準化——二件目の工数を落とす

利益率を上げる打ち手は、突き詰めると「二件目以降の工数を落とす」ことに尽きる。ここで言う標準化は、同じ機種を売り続けることではない。

標準化すべきものは四つある。

対象具体物効果
手順ヒアリングシート、現地調査チェックリスト、設計レビュー基準見落としが減り、手戻りが減る
部品架台、安全柵、制御盤、ハンド、センサの型番リスト調達期間と設計工数が落ちる
ソフト制御プログラムの雛形、通信仕様、HMI画面、ログ形式立ち上げ期間が短縮され、保守も楽になる
試験受入試験項目、性能判定の基準、記録フォーマット検収が長引かなくなる

このうち試験の標準化が最も効く。受入試験項目と合否基準を先に固定しておけば、「まだ安定していない」という無限の追加要求を切れる。これは顧客を突き放すためではなく、どこで完了なのかを双方が合意するための道具である。

そして標準化を成立させる前提が、ドメインを絞ることである。食品の一次加工、物流の荷降ろし、金属加工のマシンテンディング、施設の清掃——最初に一つか二つに絞る。絞ればワークの性質も、顧客の言語も、安全の論点も繰り返しになる。全業種・全用途を受けると、案件ごとに未知が残り、いつまでも初回工数のままになる。

4. 見積を外す典型パターン

赤字案件の原因は、ほぼ決まった場所にある。見積の但し書きにこれらを書けているかを、着工前に確認する。

  • ワークのばらつき。サンプルとして受け取ったワークが良品ばかりで、実際のラインには変形・汚れ・個体差がある。ばらつきの範囲を数値で合意し、範囲外は別途とする。
  • 既存設備との接続。既存のPLCやコンベアとの信号のやりとり、改造の可否、停止時間の確保。既存側の資料が残っていない現場は珍しくない。調査工数を別建てにする。
  • 現場環境。床の平坦度、粉塵、油、温湿度、通信環境、電源容量。特に稼働中の工場では、工事可能な時間帯が限られる。
  • 段取り替えと品種追加。稼働後に品種が増えるのは前提として起きる。何品種までを契約範囲とし、追加は有償と明記する。
  • 教育と立ち会い。顧客側のオペレーター教育、夜勤立ち会い、試運転期間の常駐。日数を明示する。
  • 検収条件。稼働率・タクトタイム・良品率のどれを、どの条件で、何日間測って合格とするか。
  • 稼働後の初期サポート期間。無償対応の期間と範囲を切り、以降は保守契約とする。

要件整理そのものの進め方は、発注側の視点だがロボット導入の要件定義書PoC(実証実験)の設計と評価が実務的に近い。SIer側としては、これらを顧客と一緒に埋める場を提案フェーズで持てるかどうかが、受注後の利益を左右する。

提案フェーズを有償化する

構想設計・現場調査・簡易検証を無償で行うと、失注時にそのまま損失になる。歩留まりを考えれば、無償提案の連続は事業として持たない。構想フェーズを有償の役務として切り出す——現場調査と実現性評価を数十万円規模の別契約にし、本契約時に一部を充当する——という形は、顧客側にも本気度の確認として機能する。上流を有償化できている事業者と、できていない事業者では、営業効率が大きく変わる。

5. 立ち上げの12ヶ月ロードマップ

新規に立ち上げる、あるいは装置メーカー・商社から参入する場合の順序を示す。

時期やること出せる成果物
0〜2ヶ月ドメイン選定。既存顧客・自社の業界知見が効く領域を一つ選ぶ。競合と代替手段の確認ドメイン定義、想定用途リスト
2〜4ヶ月主要メーカー・周辺機器の選定と代理店契約。技術研修の受講。標準構成の初版標準構成図、部品型番リスト
3〜6ヶ月一件目の獲得。自社工場・関係会社・既存顧客など、失敗が許容される相手が望ましいリファレンス案件、実測データ
6〜9ヶ月標準化の抽出。一件目からヒアリングシート・試験項目・プログラム雛形を作る手順書一式
6〜12ヶ月二〜三件目。一件目と同じドメインで、工数削減幅を測る工数比較データ
9〜12ヶ月保守契約の商品化。SLAと料金表を作り、既納先に提案保守メニュー、料金表

最初の3案件の選び方が決定的である。金額の大きさではなく、次の条件で選ぶ。

  1. 同じドメインであること(標準化の材料になる)
  2. 現場が協力的であること(データが取れ、改善が回る)
  3. 事例として公開できること(次の営業の武器になる)
  4. 失敗しても関係が壊れないこと

この四つを満たす案件を、多少採算が薄くても優先する。逆に、いきなり大型で難易度の高い案件を受けると、そこに全リソースが吸われ、標準化どころではなくなる。

6. 人と組織

事業を制約するのは、ほぼ常に人である。必要な役割は、大きく四つに分かれる。

役割担うこと採用・育成の難しさ
構想・提案現場を見て、自動化の当たりをつけ、顧客の言葉で説明する最も希少。技術と業務の両方が要る
機械設計ハンド、架台、周辺機構装置メーカー出身者が適合しやすい
制御・ソフトロボットプログラム、PLC、ビジョン、上位連携需要が集中しており競合が激しい
立ち上げ・保守据付、調整、現地対応出張が多く定着が課題。標準化で負荷を下げる

すべてを内製しようとすると立ち上がりが遅い。自社が強い一層を決め、残りは組む。機械設計を持つ装置メーカーなら制御と上位連携を外部と組む、ソフトが強いなら機構は協力会社に出す、といった形である。この考え方はロボットビジネスの始め方でも触れているが、SIer事業では特に、案件の山谷が激しいため、固定費として全職種を抱えるリスクが大きい。

もうひとつ、忘れられがちなのが安全に責任を持てる人材である。人と近接して動く設備を納める以上、リスクアセスメントを実施し、記録を残し、必要な保護方策を講じる責任が生じる。ここを外注任せにしている事業者は、事故が起きた時に立ち行かなくなる。考え方はロボットの安全とリスクアセスメントおよび協働ロボットの導入と安全設計を参照されたい。

7. 事業を伸ばす三つの方向

一定の受注が回り始めた後、伸ばし方は三方向ある。

① 縦に深める(ドメイン特化)。 一つの業種・工程で圧倒的な実績を積み、標準構成を磨き込む。工数削減が最も効き、粗利率が上がる。営業も紹介で回りやすい。反面、その業種の設備投資が冷えると直撃を受ける。

② 横に広げる(ドメイン追加)。 隣接する業種・工程へ広げる。リスク分散になるが、標準化がリセットされるため、一時的に粗利率が落ちる。①で体力をつけてから行う順序が望ましい。

③ 層を上げる(保守・運用へ)。 ②エンジニアリング中心から③④のストック収益へ重心を移す。売上の変動が減り、事業価値が安定する。既納台数が増えるほど有利になるため、①②の積み上げが前提になる。

多くの事業者にとって現実的な順序は、①で標準化と粗利率を作り、③で収益を安定させ、その体力で②へ広げるである。最初から②に走ると、標準化が効かないまま案件だけ増える。

8. 発注する側が知っておくとよいこと

発注側にとっても、SIerの経済構造を理解しておく意味は大きい。

  • 無償の提案・構想設計を何社にも求めると、本気の事業者ほど降りる。有償の構想フェーズを設ければ、質の高い提案が集まる。
  • 相見積の比較は、機器費だけでなくエンジニアリング・保守の内訳で見る。総額が安い提案は、多くの場合、立ち上げ支援と保守が抜けている。
  • 保守契約を「余計なコスト」として削ると、稼働後に止まった時の復旧が遅くなる。稼働率が落ちれば、投資回収の前提が崩れる。
  • 得意ドメインを持つSIerを選ぶ。「何でもできます」より「この工程を何件やっています」のほうが、結果として安く速い。

選定の実務はロボット選定の勘所とSIerの選び方に詳しい。

まとめ

ロボットSIer事業の難しさは、技術ではなく構造にある。一品一様の受託は、案件が増えるほどエンジニアが張り付き、売上が伸びても利益が伸びない。抜け道は三つ——ドメインを絞って標準化し二件目の工数を落とすこと、保守を初回契約に組み込んでストック収益をつくること、そして一社ですべてを抱え込まないことである。

RobiZyは、ロボットを販売しないNPO法人として、ユーザー企業・自治体、ロボットメーカー、SIer、運用事業者、大学・研究機関が同じテーブルに着く会員組織を運営している。SIer事業を立ち上げる側にとっては、案件の入口となるユーザー側の課題に触れられる場であり、不足する層を補完し合うパートナーに出会える場でもある。標準化の知見や安全・契約の実務は、一社で抱え込むより持ち寄ったほうが早く積み上がる。事業として本気で取り組む方は、正会員としての参加を検討いただきたい。

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