ロボット導入のKPI設計と効果測定

KPI & Measurement·定着・運用·約11分·全8ページ
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エグゼクティブ・サマリー

  • 「導入したが効果がわからない」の大半は、測定に失敗したのではなく測る前に定義していなかったことに起因する。KPIは導入後に決めるものではなく、要件定義と同時に決めるものである。
  • KPIは1本では機能しない。設備KPI(機械は動いたか)/業務KPI(仕事は変わったか)/財務KPI(金額はどう動いたか)/定着KPI(人は使い続けているか)の4層に分け、層をまたいで因果をつなぐ。稼働率だけを追うと、機械は動いているのに効果が出ない状態を説明できない。
  • 「稼働率」は6通りに読める言葉である。分母を24時間にするのか、就業時間にするのか、計画稼働時間にするのか。定義を紙に書いていない稼働率は、報告のたびに数字が変わり、議論が定義論争に消える。
  • 効果測定の成否は導入前に決まる。ベースラインは導入前にしか取れない。ここを飛ばした案件は、以後どれだけ丁寧に測っても「導入前と比べていくら良くなったか」を永遠に証明できない。
  • KPIは監視のためではなく意思決定のためにある。誰が、いつ、どの数字を見て、何を決めるのかまで設計して初めてKPIになる。見る人と決めることが決まっていない指標は、集計の手間だけを増やす。

ロボットを導入して1年ほど経った企業から、よく同じ相談を受ける。「稼働はしている。現場も慣れてきた。ただ、経営から効果を聞かれると答えに詰まる」というものだ。担当者は真面目に運用してきたし、機械も問題なく動いている。それでも数字にならない。

このとき何が起きているかというと、たいてい2つのうちどちらかである。ひとつは、導入前の状態を測っていないため比較対象がないこと。もうひとつは、稼働率のような設備側の数字は取れているのに、それが業務や金額にどうつながるのかを最初に定義していないことだ。どちらも、導入後の努力では取り返せない。効果測定の勝負は、機械が来る前についている。

RobiZyはロボットを売らないNPO法人であり、中立のコーディネーターとして導入する側に立つ。売り手はカタログ性能を語るが、その性能が自社のどの数字をどう動かすのかまでは踏み込めない。踏み込むと責任範囲が広がるからである。本稿は、導入7工程の②要件定義の段階でKPIをどう置き、⑥定着化・⑦運用でどう回すかを、実務の手順として示す。

KPIが機能しない3つの典型

まず、うまくいかないパターンを先に潰しておきたい。現場で繰り返し見るのは次の3つである。

第一に、指標が設備の話で完結している。 稼働率、可動率、搬送回数、処理個数。これらは重要だが、すべて「機械がどう動いたか」の話である。経営が知りたいのは「その結果、仕事と金額がどう変わったか」であって、機械の勤勉さではない。設備KPIだけを並べた報告書は、必ず「で、いくら効果があったのか」で止まる。

第二に、指標が多すぎる。 良かれと思って20も30も指標を並べると、誰も見なくなる。集計に工数がかかり、担当者の負担になり、やがて更新が止まる。見る人が毎回見る数字は、多くて5〜7個である。それ以上は「必要になったら掘る詳細データ」であって、KPIではない。

第三に、誰が何を決めるための数字なのかが決まっていない。 これが最も多い。指標は定義され、ダッシュボードも作られたが、その数字が下がったときに誰が何をするのかが決まっていない。結果、数字は眺められるだけで、改善につながらない。KPIは監視ではなく意思決定の道具であるという原則を外すと、必ずここに落ちる。

この3つは、いずれも「導入後にKPIを考え始めた」ことの症状である。要件定義の段階で決めていれば、そもそも起きにくい。KPIの設計はロボット導入の要件定義書の一部として扱うのが正しい。

KPIの4層構造

KPIは4つの層に分けて設計する。層を分ける目的は、効果が出なかったときに、どこで切れているかを特定できるようにすることである。

問い代表的な指標主な見る人測定頻度
設備KPI機械は計画どおり動いたか稼働率、可動率、平均故障間隔、平均復旧時間、処理量、エラー発生率現場責任者、保全担当日次〜週次
業務KPI仕事のやり方は変わったか対象工程の人時間、リードタイム、処理能力、品質不良率、残業時間、身体負荷部門長、現場責任者週次〜月次
財務KPI金額はどう動いたか削減人件費、追加運用コスト、単位あたり原価、投資回収年数経営、経理、企画月次〜四半期
定着KPI人は使い続けているか稼働させた日の割合、手動介入の回数、操作可能者の人数、現場からの改善提案数推進責任者、部門長月次

この4層をつなぐと、次のような因果の鎖になる。機械が計画どおり動く(設備)→ 対象工程の人時間が減る(業務)→ 人件費または残業代が下がる、あるいは増産できる(財務)。そして、この鎖を持続させる条件が定着である。

重要なのは、設備KPIが良好なのに業務KPIが動かない状態が普通に起こることだ。機械は動いているが、人は結局そばに張り付いている。搬送はされているが、その先の工程で滞留している。この状態は設備KPIだけを見ていると絶対に検知できない。逆に、業務KPIが動かない原因が設備側にあるのか業務設計側にあるのかを切り分けられるのは、4層に分けているからである。

定着KPIを独立した層として置く理由も同じである。導入直後は使われていても、半年後に使われなくなる設備は珍しくない。「使わなかった日」を記録する仕組みがなければ、静かな死は誰にも気づかれない。詳しくは定着化・運用設計を参照されたい。

「稼働率」という言葉を分解する

現場で最も混乱を生む指標が稼働率である。同じ言葉を使いながら、人によって違うものを指しているからだ。まず分母と分子の組み合わせを紙に書いて確定させる。

呼び方(例)分子分母この数字が答える問い
時間稼働率実際に稼働した時間就業時間就業時間のうち、どれだけ機械が動いていたか
計画稼働率実際に稼働した時間稼働させる計画だった時間計画に対して動けたか(計画外の停止だけを見る)
可動率(べきどうりつ)実際に稼働した時間稼働させようとした時間動かしたいときに動いてくれるか=設備の信頼性
暦稼働率実際に稼働した時間24時間×日数設備投資の使い切り度合い(多台数投資の判断に使う)
能力稼働率実処理量理論最大処理量能力に対してどれだけ出せているか
実働日率一度でも稼働した日数営業日数そもそも使われているか(定着KPIとして有効)

どれが正しいということはない。目的が違うだけである。設備の信頼性を議論したいなら可動率、投資判断をしたいなら暦稼働率、定着を見たいなら実働日率。問題は、これを定義せずに「稼働率85%」と報告することだ。聞き手が別の定義で受け取れば、その後の議論はすべてずれる。

実務では次のように書き下しておくとよい。

  • 指標名:計画稼働率
  • 分子:ロボット制御ログ上のRUN状態の合計時間
  • 分母:生産計画上、当該設備を動かす計画だった時間
  • 除外:計画停止(段取り替え、定期点検、休憩)は分母から除く
  • 取得元:制御ログの日次エクスポート
  • 集計担当:製造課の日報担当
  • 報告先と頻度:週次の課内会議、月次の推進会議

ここまで書いて初めて、誰が集計しても同じ数字になる。除外条件を書いていない指標は、集計者が変わった瞬間に不連続になる。

ベースライン——導入前にしか取れないもの

効果測定で唯一取り返しがつかないのが、ベースライン(導入前の実測値)である。導入後に「導入前はだいたい3人で4時間くらいでした」と記憶で語っても、経営会議では根拠にならない。

ベースラインは機械の発注前、遅くとも据付前に測る。測る項目は、後で効果を主張したい項目そのものである。逆に言えば、ベースラインを設計することが、KPIを設計することと同義になる。

測る項目測り方期間の目安注意点
対象工程の人時間実測(ストップウォッチまたは作業記録)繁忙・通常・閑散を各数日標準時間ではなく実測。標準時間は現実と乖離していることが多い
関与人数と役割職位・資格別に記録同上「応援に入る人」を数え漏らさない
処理量日次の実績値直近12か月あれば理想季節変動を必ず含める
品質不良率既存の品質記録直近12か月定義(何を不良とするか)を導入後も変えない
残業時間勤怠記録直近12か月対象部署を限定して抽出する
リードタイム工程間の滞留も含めて実測数日〜数週工程単体でなく前後を含めて測る
発生していた困りごと現場ヒアリングを文章で記録導入前に1回数値化できない効果を後で語る唯一の材料になる

最後の行を軽視しないでほしい。腰を痛める作業がなくなった、夜間の呼び出しが減った、新人が1週間で戦力になった——こうした変化は金額換算しにくいが、経営に効く。導入前の困りごとを文章で残しておかなければ、「解決された」ことすら言えなくなる。

季節変動のある業務では、ベースラインは最低でも繁忙期と通常期の両方を取る。1週間だけ測って年間効果を12倍する試算は、繁忙期に測れば過大、閑散期に測れば過小になり、どちらにせよ後で信頼を失う。

測定の実務——データをどこから取るか

KPIは「取れるデータ」で設計してはならないが、「取れないデータ」で設計しても回らない。設計とデータ取得の現実性を、要件定義の段階ですり合わせる。

データ源は大きく4つある。

第一に、ロボット・設備の制御ログ。 最も正確で、人手がかからない。ただし取得できるかどうかは機種と契約に依存する。ログの出力形式、外部への取り出し可否、保持期間、追加費用の有無を、選定段階で必ず確認する。導入後に「ログは出せません」と言われるのが最悪のパターンであり、これはロボット選定の勘所とSIerの選び方で述べた確認事項に含めるべき項目である。複数機種・複数ベンダーを入れる計画なら、データ形式の統一は最初に決めておく。

第二に、既存の業務システム。 生産管理、在庫管理、勤怠、品質記録。すでにあるデータなので追加コストが小さく、経営が見慣れた数字であるという利点が大きい。財務KPIは、可能な限り既存の会計・勤怠データに接続する。 独自集計の数字は、経営会議で必ず「その数字はどこから来たのか」と問われる。

第三に、現場の手入力。 手動介入の回数、停止の理由、改善の気づき。これは自動では取れないが、最も改善に効く情報を含む。ただし負担を最小にすることが絶対条件である。項目は3つまで、入力は1日1回30秒以内。これを超えると、必ず形骸化する。

第四に、定期的なヒアリング・アンケート。 定着KPIの一部と、数値化しにくい効果の把握に使う。四半期に一度で十分である。

設計時のチェックポイントを挙げておく。

  • その指標のデータは、今すでに取れるか。取れないなら、取れるようにする作業を誰がいつやるか
  • 集計にかかる時間は月あたり何時間か。担当者一人に3時間以上かかる仕組みは続かない
  • 集計担当者が異動したとき、引き継げるか。手順書はあるか
  • 導入前後で定義が変わらないか。定義が変わると比較が壊れる

レビューの設計——誰がいつ見て、何を決めるか

指標を決めたら、次は会議体に紐づける。ここまでやって初めてKPIになる。

会議頻度主に見る層そこで決めること
現場ミーティング日次または週次設備KPI今日の停止の原因、明日の段取り、保全依頼を出すか
部門レビュー月次業務KPI+定着KPI業務フローの手直し、教育の追加、改善提案の採否
推進会議月次または隔月4層すべて横展開するか、追加投資するか、止めるか
経営報告四半期財務KPI(+根拠としての業務KPI)次年度の投資判断、対象範囲の拡大

この表で最も重要なのは右端の列である。「そこで何を決めるのか」が空欄の会議は、報告のための報告になる。 逆に、決めることが明確なら、そこに必要な指標は自然に絞られる。指標が多すぎると感じたときは、「この数字は、どの会議で、何を決めるために使うのか」を1本ずつ問うとよい。答えられない指標は落としてよい。

もうひとつ設計しておくべきは、閾値と行動の紐づけである。「計画稼働率が2週連続で80%を下回ったら、保全担当と原因分析を実施し、推進会議に報告する」。このように、数字と行動をあらかじめ結んでおく。閾値のない指標は、悪化しても誰も動かない。

効果が出ないとき、どの層で切れているかを読む

KPIを4層で持っていることの最大の価値は、ここで発揮される。効果が出ないときの切り分けは次のようになる。

設備KPIが低い場合。 機械が動いていない。原因は故障か、段取りか、素材供給の待ちか、人の待ちか。停止理由の記録が効いてくる。停止理由を分類して積み上げると、たいてい上位2〜3項目で全体の大半を占める。ここに手を打つ。

設備KPIは高いが業務KPIが動かない場合。 これが最も多く、最も見落とされる。機械は動いているのに仕事が変わっていない。考えられる原因は、(1)人の役割を設計していないため結局そばに人が張り付いている、(2)対象工程の前後がボトルネックで全体のリードタイムが変わらない、(3)そもそも対象工程が全体の中で小さく、改善の効果が埋もれている。(1)なら人とロボットの役割分担設計に立ち返る。(2)なら対象範囲の設定自体を見直す。(3)は選定の前の構想段階の問題であり、RX構想策定の作り方で扱う領域になる。

業務KPIは動いたが財務KPIが動かない場合。 人時間は減ったが金額が減っていない。これは失敗ではなく、効果の受け止め方を決めていないことが多い。浮いた時間を何に使うのかを決めていなければ、コストは減らない。増産に充てるのか、他工程の応援に回すのか、残業を減らすのか、採用を止めるのか。「浮いた時間の行き先」を先に決めておくことが、財務効果を出す条件である。この設計はロボット導入の投資対効果(ROI)の語り方の中核でもある。

定着KPIが落ちている場合。 実働日率が下がる、手動介入が増える、操作できる人が減る。これは静かに進行し、気づいたときには使われなくなっている。操作可能者の人数は特に重要で、1人しか操作できない設備は、その人の異動で必ず止まる。定着KPIに「操作可能者数」を必ず入れておくべき理由である。

導入前に埋めるチェックリスト

最後に、要件定義の段階で埋めるべき項目をまとめる。この表が埋まっていれば、効果測定で困ることはほぼない。

#確認項目確認できたか
14層それぞれに指標を置いたか(設備/業務/財務/定着)
2常時見る指標は7個以内に収まっているか
3各指標の分子・分母・除外条件を文章で書いたか
4各指標のデータ取得元と集計担当を決めたか
5制御ログを外部に取り出せるか、ベンダーに確認したか
6ベースラインを、繁忙期を含めて実測したか
7導入前の困りごとを文章で記録したか
8各指標を見る会議と、そこで決めることを定めたか
9悪化したときの閾値と、取るべき行動を紐づけたか
10浮いた人時間の行き先を、事前に決めたか
11集計にかかる月あたり工数を見積もり、許容範囲か確認したか
12集計担当が交代しても続く手順書があるか

まとめ

KPI設計の要点は4つである。

第一に、KPIは導入前に決める。とくにベースラインは導入前にしか取れず、これを逃すと効果を証明する手段が永久に失われる。第二に、4層に分ける。設備・業務・財務・定着に分けておけば、効果が出ないときにどこで切れているかを特定できる。第三に、言葉を定義する。稼働率は6通りに読める。分子・分母・除外条件を書いていない指標は、議論を定義論争に変えてしまう。第四に、会議と行動に紐づける。見る人と決めることが決まっていない指標は、集計の手間を増やすだけである。

そして、この設計を自社だけで行うのは、実は難しい。売り手であるメーカーやSIerは、自社の責任範囲である設備KPIまでは丁寧に設計してくれる。しかし業務KPI・財務KPIは導入企業の業務そのものであり、外部の売り手が踏み込むには利害が近すぎる。かといって社内だけで進めると、「経営に説明できる形」の設計経験が不足しがちである。

RobiZyはロボットを売らないNPO法人であり、機種にも受注にも利害を持たない。だからこそ、「その指標で経営に説明できるか」「その効果は本当に出るのか」を、導入企業と同じ側に立って詰められる。構想段階、あるいは要件定義の途中からでも構わない。「何を測ればいいのかわからない」「入れたが効果を説明できずに困っている」という段階のご相談を、無料でお受けしている。すでに導入済みの設備についても、いま何を測り直すべきかを一緒に整理することはできる。

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RobiZyは中立のコーディネーターとして、RX構想策定・要件定義・PoC・ロボット選定・プロジェクト組成・定着化まで伴走します。構想段階のご相談を歓迎します。