農業のロボット導入——収穫・防除・運搬の実装

Agriculture·業種別·約11分·全8ページ
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エグゼクティブ・サマリー

  • 農業のロボット導入が難しいのは技術の未熟さより前提の違いにある。対象が生き物でばらつきが大きく、圃場は不整地で天候に晒され、作業は年間の限られた期間に集中する。工場の自動化ロジックをそのまま持ち込むと必ず外れる。
  • 収穫・防除・運搬は同じ「農業ロボット」でも難易度と投資回収性がまったく違う。難しさは収穫>防除>運搬、回収の早さは運搬>防除>収穫という逆順になる。にもかかわらず検討は収穫から始まりがちで、そこで止まる。
  • 農業の投資判断を決めるのは単価でも性能でもなく年間稼働日数である。年に20日しか動かない機械は、性能が倍でも回収できない。稼働日数を増やす設計(多作物・多圃場・共同利用)が事実上の勝負どころになる。
  • 一戸・一法人で抱え込むと投資が過大になる。産地単位・法人連合・自治体との共同利用という事業体の組み方が、農業では機種選定と同じ重みを持つ。
  • 農業でも導入7工程は変わらない。ただし②要件定義・PoCの検証期間が作期に縛られる——一度逃すと次の検証は1年後になる。この時間軸を前提に計画を引く必要がある。

農業の現場でロボットの相談を受けると、ほぼ例外なく最初に出てくるのは収穫の話である。人手が最も要るのが収穫期であり、最もきついのも収穫作業だからだ。相談としてまったく正しい。しかし収穫は、農業ロボットのなかで最も実装が難しい領域でもある。ここから入って行き詰まり、「農業にロボットはまだ早い」と結論づけてしまう例を、私たちは何度も見てきた。

早くはない。入り口の順番が違うだけである。運搬や防除から入って現場に自動化の運用を根づかせ、そのうえで収穫に挑む産地は、着実に前へ進んでいる。逆に、いきなり最難関に投資して失敗した産地は、次の一歩まで数年を失う。

RobiZyはロボットを売らないNPO法人であり、中立のコーディネーターとして導入する側に立つ。だからこそ「まず売れる機械」ではなく「まず回る順番」を示せる。本稿は農業の自動化を収穫・防除・運搬の3領域に分け、それぞれの難所と投資回収の考え方、そして一戸では担えない投資をどう組成するかを整理する。

農業の自動化が製造業と決定的に違う4点

まず前提を揃えたい。製造業の自動化で通用する考え方のうち、農業では成立しないものが4つある。

第一に、対象のばらつきが桁違いに大きい。 工場のワークは寸法公差の範囲に収まっているが、果実や野菜は個体差そのものが正常である。大きさ、色、熟度、着果位置、葉の茂り方。同じ品種でも株ごとに違い、同じ株でも日ごとに変わる。したがって「精度99%」という数字は、どの圃場のどの時期のどの品種で測ったのかを添えなければ意味を持たない。カタログ値をそのまま自社の圃場に当てはめてはならない。

第二に、環境が制御されていない。 屋外の圃場は照度が刻々と変わり、雨で足元がぬかるみ、風で植物が揺れる。屋内の施設園芸でも、通路幅は人が通ることを前提に作られており、機械が旋回できる保証はない。工場なら環境を機械に合わせて作り替えられるが、圃場でそれをやると造成費が機械代を上回ることがある。

第三に、稼働が季節に張り付いている。 収穫ロボットが働けるのは収穫期だけである。年間300日稼働する製造ラインの設備と、年間20日稼働する農機を、同じ投資回収の物差しで測ることはできない。ここを外した試算が、農業のロボット案件では最も多い誤りである。

第四に、投資主体と使用者が分かれやすい。 機械を買うのは法人や自治体や集落組織で、実際に使うのは個々の生産者や季節雇用の作業者、というねじれが普通に起こる。使う人が投資判断に関わっていない設備は、製造業以上に使われなくなる。誰が投資し、誰が使い、誰が保守するのかを最初に決めなければならない。

この4点は技術で解決できない。設計と体制で吸収するしかない部分である。

収穫・防除・運搬——難易度と回収性は逆順になる

3領域を同じ土俵で比べると、検討の順番が見えてくる。

領域技術的な難所効果が現れる形年間稼働日数の目安検討順序としての位置づけ
収穫個体差の認識、可食部を傷めない把持、着果位置への到達、収穫適期の判定収穫期のピーク人員の削減、収穫遅れによる品質低下の抑制作物により極端に短い。単一作物なら数十日規模最も欲しいが最も難しい。多くの場合は第三段階
防除均一な散布、対象と非対象の識別、飛散の管理、法令・地域ルールの遵守作業時間の短縮、薬剤の使用量最適化、作業者の健康リスク低減作期を通じて複数回。収穫より長い面積が効くため効果を数字にしやすい。第二段階
運搬不整地の走行、経路の設定、積み下ろしの人手介在、通路幅重量物運搬の負担軽減、往復時間の削減、高齢作業者の継続就労作業のある日はほぼ毎日。最も長い最も地味で最も回りやすい。第一段階に適する

この表の要点は右の2列にある。収穫は最も価値が大きく見えるが、稼働日数が最も短い。逆に運搬は一件あたりの効果は小さいが、動く日が多く、技術的な不確実性も低い。つまり運搬は「投資として最も安全な入口」である。

もうひとつ、運搬から入ることには技術以外の効用がある。現場に「機械と一緒に働く運用」が先に根づくことだ。充電や点検の当番、異常時に誰を呼ぶか、作業計画にどう組み込むか。これらは収穫ロボットでも防除ドローンでも同じように必要になる運用の骨格であり、リスクの低い運搬で先に習得しておけば、次の投資の成功率が上がる。定着化・運用設計で述べた運用設計を、安い機械で先に練習すると考えればよい。

収穫——「収穫率」ではなく「実効収穫速度」で測る

収穫ロボットの検討でカタログの数字を比べるとき、見るべき指標を間違えやすい。よく提示されるのは収穫成功率(掴めた割合)だが、投資判断に効くのはそこではない。

見るべきは実効収穫速度、すなわち「1時間あたり、実際に出荷できる状態で収穫できた数量」である。成功率が高くても、1個あたりの動作時間が長ければ実効速度は出ない。逆に成功率が中程度でも、取り逃した実は人が拾えばよいなら、実効速度は十分になり得る。加えて次の要素が実効速度を削る。

  • 移動時間(株から株へ、畝の端での旋回、圃場間の移動)
  • 認識に迷って停止する時間、および人が介入する頻度
  • 収穫物の搬出・容器交換にかかる人手の待ち時間
  • 充電・バッテリー交換の時間と、その間の代替手段

したがって収穫ロボットの評価は、必ず自社の圃場・自社の品種・自社の栽培様式で、通しの1日を測る必要がある。展示会のデモや他産地の実績値は、判断材料にはなっても根拠にはならない。ここはPoC(実証実験)の設計と評価で述べた考え方がそのまま当てはまる。ただし農業には重い制約がひとつある——やり直しが1年後になることだ。作期を逃せば次の検証機会は翌年である。PoCの設計はこの一発勝負を前提に、測る項目と記録者を事前に確定させておかなければならない。

栽培様式そのものを見直す選択肢も、必ず検討対象に入れたい。仕立て方、株間、支柱の配置、通路幅。これらを機械が動きやすい形に寄せることで、機械側の難易度は大きく下がる。「今の栽培のままで動く機械を探す」より「機械が動く栽培に少し寄せる」ほうが、費用も成功率も有利になる局面は多い。これは工場のToBe業務設計と同じ発想であり、人とロボットの役割分担設計の農業版と考えてよい。

防除——面積が効くので効果を数字にしやすい

防除は、効果の説明が最もしやすい領域である。作業時間は面積に比例し、散布量も面積で管理されているため、導入前後の比較が素直に取れる。効果は次の3つに分解できる。

第一に作業時間の短縮。人力や乗用機での散布に比べ、単位面積あたりの所要時間がどう変わるか。第二に薬剤使用量の適正化。対象を識別して必要な場所だけに散布できれば、資材費が下がる。第三に作業者の健康リスクと負担の低減。これは金額にしにくいが、担い手の継続就労に直結するため、経営判断では軽視できない。

一方で防除には、他の領域にない制約が伴う。使用する薬剤ごとに適用や散布方法の条件があり、機械散布に対応しているかどうかは薬剤側の条件に従う。 さらに飛散の管理、周辺の圃場や住宅への配慮、地域や関係機関との事前調整、そして無人航空機を用いる場合は飛行に関する法規制と手続きが加わる。技術検討と並行して、この手続き面を誰が担うのかを最初に決めておく必要がある。導入後に「手続きをやる人がいない」ことが判明して稼働が止まる例は、決して珍しくない。適用条件や手続きの要件は改定されるため、必ず最新の公的情報と、地域の関係機関への確認を経て確定させること。本稿の記述を根拠にしてはならない。

運搬——最も地味で、最も早く回る

収穫物のコンテナ、資材、収穫容器。農業の現場では重量物を人が運ぶ場面が非常に多く、これが高齢の担い手にとって就労を続けるうえで最も大きな障害になっている。運搬の自動化・省力化は、追従型の運搬車、レール式・軌道式の搬送、電動アシスト付きの運搬機、屋内での自動搬送など、選択肢の幅が広く、価格帯も広い。

運搬から入るべき理由を改めて整理する。

  1. 稼働日数が長い。作業のある日はほぼ毎日使うため、同じ投資額でも1日あたりの負担が小さい。
  2. 技術的な不確実性が低い。認識精度に成否が左右されにくく、PoCの結果が読みやすい。
  3. 効果が測りやすい。往復回数と1回あたり所要時間を導入前に測っておけば、効果は掛け算で出る。
  4. 運用の型が身につく。充電・点検・当番・異常時対応という、あらゆるロボットに共通する運用をここで作れる。

注意点はひとつ、積み下ろしが人手のままだと効果が半減することである。運搬時間は減っても、人が積んで人が下ろすなら、拘束時間はさほど変わらない。運搬機の検討では、走行だけでなく「積む・下ろす」をどう扱うかまで含めて設計する。

誰が投資し、誰が使うのか——事業体の設計

農業のロボット導入で、機種選定と同じかそれ以上に重要なのが、投資主体の設計である。年20日しか動かない機械を一戸で買えば回収できないが、複数の経営体で共同利用すれば稼働日数は積み上がる。作物や作期をずらして組み合わせれば、さらに伸びる。

現実的な組み方は次のいずれか、またはその組み合わせになる。

組成の型投資主体向く状況主な論点
単独導入個別の農業法人規模が大きく、単独で稼働日数を確保できる保守体制と操作者の確保を自前で持てるか
共同利用複数経営体の連合、集落組織一戸あたりの面積が小さく、作期が近い利用調整のルール、繁忙期の優先順位、破損時の負担
産地単位産地の協議会・部会同一品目で産地全体の課題が共通意思決定の速度、参加・不参加の扱い
公共関与型自治体・公的機関が主体または支援地域の担い手確保が政策課題になっている事業終了後の運営主体、機械の帰属
サービス利用型作業受託事業者が投資し、生産者は作業を委託自ら投資・保守を担えない委託単価、繁忙期の受託能力、責任分界

どの型でも、必ず先に決めるべき項目は共通している。繁忙期に利用が競合したときの優先順位、故障時の費用負担、操作できる人の確保と教育、そして事業や補助の期間が終わった後に誰が運営を続けるのか。 最後の項目を空欄にしたまま始まった取り組みは、支援期間の終了とともに機械が倉庫で眠ることになる。共同で進める場合の合意形成の手順はコンソーシアム型導入のプロジェクトマネジメントに詳しい。

資金面では、農業分野には設備投資や省力化を支援する制度が複数存在する。ただし対象要件・補助率・公募時期は毎年変わり、地域独自の制度もある。制度を前提に計画を組むのではなく、計画を先に固めたうえで、その時点で使える制度を探す順序を勧める。制度に合わせて設計した計画は、たいてい現場に合わない。考え方は補助金・助成金でロボット導入を進めるを参照されたい。

費用対効果は「年間稼働日数」から逆算する

農業のロボット投資は、次の順序で計算すると判断を誤りにくい。

  1. 年間稼働日数を確定する。 作期と作業日数から、その機械が実際に動く日数を出す。悲観・標準・楽観の3ケースを置く。
  2. 1日あたりの削減効果を出す。 削減できる人時間 × 実際の人件費単価。ここは推定ではなく実測に基づくこと。
  3. 年間効果 = 1と2の積。 これに、品質向上や収穫遅れ回避などの副次効果を、根拠が示せる範囲で加える。
  4. 年間コストを引く。 保守費、消耗品、電力・燃料、保険、操作者の教育費、そして通信費。
  5. 回収年数を出し、機械の想定使用年数と比べる。 回収年数が使用年数を超えるなら、共同利用で1の稼働日数を増やせないかに戻る。

ここで最も過小に見積もられるのが4の年間コストと、「増える仕事」である。充電、清掃、点検、圃場への搬入出、データの確認、不調時の連絡。これらは新しく発生する作業であり、削減時間から差し引かなければならない。効果算定の一般的な組み立てはロボット導入の投資対効果(ROI)の語り方に整理してある。

導入7工程を農業に当てはめる

導入7工程(①RXビジョン/構想策定 ②要件定義・PoC・選定・組成 ③構築スケジュール/ToBe業務設計 ④システム設計 ⑤開発・導入 ⑥定着化 ⑦運用)は農業でも変わらない。ただし各工程で問うべきことが変わる。

工程農業での問い落とし穴
①構想策定担い手を何年後にどう維持するのか。規模拡大か、負担軽減か、品質安定か「省力化」で止めると機種比較に落ちる。目的を経営の言葉で書く
②要件定義・PoC・組成自社の圃場・品種で測ったか。誰が投資し誰が使うか作期を逃すと検証が1年後。測る項目を事前に確定させる
③ToBe業務設計栽培様式そのものを機械に寄せられるか「今のまま」を前提にすると選択肢が消える
④システム設計圃場の通信環境、電源、保管場所、データの置き場所圃場に電波が届かない、充電できる場所がない、が後から出る
⑤開発・導入誰が操作できるようになるか。教育の対象と時期繁忙期に教育を入れて現場が拒否する
⑥定着化当番、点検、異常時の連絡先。作業計画への組み込み担当者一人に依存し、その人が休むと止まる
⑦運用保守の到着時間、部品供給、次期更新の原資繁忙期の故障で作期を落とす。代替手段を決めていない

農業に固有で最も重い制約は、②に書いた検証機会の希少性である。工場なら来週やり直せることが、農業では来年になる。だからこそ、PoCの前に測定項目・記録者・判断基準を紙に落としておく価値が、他産業より格段に大きい。

よくある失敗

現場で繰り返し見る失敗を挙げておく。いずれも技術ではなく段取りの問題である。

  • 最難関から入る。 収穫から着手し、精度が出ずに全体が止まる。運搬・防除で運用を作ってから収穫へ向かう順序を推奨する。
  • 他産地の実績値をそのまま使う。 品種・仕立て・土壌・気候が違えば結果は変わる。自社圃場での実測が唯一の根拠である。
  • 稼働日数を数えていない。 性能と価格だけで比較し、年20日しか動かない機械に単独投資してしまう。
  • 使う人が決まっていない。 操作できる人が一人しかいない、あるいは季節雇用者に依存していて毎年教育が必要になる。
  • 保守の到着時間を確認していない。 繁忙期の1日の停止が作期全体に響く。修理体制と代替手段を契約時に確認する。
  • 手続きの担当が空欄。 特に防除で、法規制や地域調整を担う人が決まっておらず稼働できない。
  • 支援期間終了後の運営主体が未定。 公的支援で導入したものの、期間終了後に維持費の出所がなく休眠する。

まとめ

農業のロボット導入は、技術の問題である前に順番と体制の問題である。整理すると次の4点に尽きる。

第一に、運搬から入る。稼働日数が長く、不確実性が低く、運用の型が身につく。第二に、防除で効果を数字にする。面積が効くため経営への説明がしやすく、次の投資の根拠になる。第三に、収穫は自社圃場での実測で判断する。カタログ値と他産地の実績は根拠にならず、検証機会は年に一度しかない。第四に、投資主体を先に設計する。年間稼働日数を積み上げられる組み方——共同利用、産地単位、サービス利用——が、機種選定と同じ重みを持つ。

そして、これらを一戸・一法人だけで判断するのは難しい。機械メーカーは自社の機械を勧め、SIerは受注できる範囲で提案する。それは当然のことであり、悪いことでもない。ただし「そもそもどの領域から手をつけるべきか」「単独か共同か」という問いに、売り手が中立に答えるのは構造的に難しい。

RobiZyはロボットを売らないNPO法人である。特定のメーカーや機種の利害を持たず、導入する側の立場で構想の段階から伴走する。何を買うかを決める前の、「どこから始めるべきか」「誰と組むべきか」という段階こそ、外部の中立な視点が最も効く。構想段階のご相談は無料でお受けしている。まだ何も決まっていない、圃場を見てもらって話したい、という状態からで構わない。むしろ、その段階でお声がけいただけるのが最も良い形である。

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自社のケースでは、何から着手すべきか。

RobiZyは中立のコーディネーターとして、RX構想策定・要件定義・PoC・ロボット選定・プロジェクト組成・定着化まで伴走します。構想段階のご相談を歓迎します。