日本のロボットを海外へ——輸出と現地対応

Global Expansion·事業・投資·約13分·全7ページ

エグゼクティブ・サマリー

  • 輸出とは「売ること」ではなく「現地で動かし続けること」である。 出荷して代金を回収した時点では何も終わっていない。現地で止まったロボットを誰が何時間で復旧させるかを決められないなら、その国にはまだ売る準備ができていない。
  • 最初に落ちるのは技術ではなく書類である。 輸出管理上の該非判定、現地の安全規格への適合、電源電圧と周波数、無線モジュールの電波認証、現地語の取扱説明書と警告表示。どれか一つ欠けても、性能がいくら良くても現場には据えられない。
  • 保守網の成熟度が、その国で売ってよいかを決める。 部品在庫・出動体制・遠隔監視の三点が揃わない国での販売は、売上ではなく将来の赤字と信用毀損を買う行為になる。
  • パートナーは販売力ではなく「工事と保守ができるか」で選ぶ。 商流を作れる相手と、現場を立ち上げて守れる相手は別の会社であることが多い。この二つを一社に期待した契約が、最もよく壊れる。
  • 現地対応は翻訳ではなく業務の作り直しである。 賃金水準・人員構成・シフト・法定休憩が違えば、投資対効果の成立条件そのものが変わる。国内で通用した投資回収の計算は、そのままでは現地で成立しない。

「引き合いが来た」から始まる輸出の失敗

ロボットの提供側が輸出を意識し始めるきっかけは、多くの場合、能動的な戦略ではなく受動的な出来事である。展示会で海外の来場者から声がかかる。国内顧客の海外工場から「日本と同じものを入れたい」と言われる。現地の商社から代理店をやらせてほしいと打診が来る。いずれも歓迎すべき話であり、断る理由はない。

問題は、この最初の一件を「輸出事業の開始」ではなく「特別対応の受注」として処理してしまうことにある。社内の誰も専任ではないまま、営業が通訳を兼ね、設計が図面の単位を直し、サービスが出張ベースで立ち上げに行く。一件目はそれでも何とか納まる。壊れるのは二件目以降で、しかも壊れ方は「売れない」ではなく「売れてしまったのに支えられない」という形をとる。現地で止まったロボットに対して、部品が届くのに数週間、技術者の派遣に稟議が要る、現地語での問い合わせに誰も応じられない——という状態が発生し、顧客からの信用と、次の商談の芽を同時に失う。

したがって輸出の検討で最初に置くべき問いは「どの国が有望か」ではない。「自社は今、どの段階の輸出までなら耐えられるか」である。本稿ではその段階を四つに整理したうえで、段階ごとに潰しておくべき論点を、法規・保守・パートナー・価格・組織の順で扱う。標準化と相互接続性の観点はロボットの標準化・相互運用性で、受託事業としての収益構造はロボットSIerという事業で扱っているため、本稿は「国境を越えたときに何が変わるか」に絞る。

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