エグゼクティブ・サマリー
- ロボット事業が止まる直接の原因は、技術の未達ではなく資金繰りである。 製品が売れていても、機体の材料費が先に出て入金が後から来る限り、売れば売るほど現金は減る。この構造を先に設計しない限り、良い製品ほど早く資金が尽きる。
- 資金需要は一つではなく、性質の違う4つに分かれる。 開発資金、量産準備資金、機体在庫の資金、そして検収までをつなぐ運転資金。この4つは返済の原資も回収までの時間も違うため、同じ財布で賄おうとすると必ずどこかが破綻する。
- 調達手段は「返し方」で選ぶ。 エクイティは返済義務がない代わりに事業の一部を渡す。デットは返済期限が固定される。補助金は後払いで、立替資金がなければ使えない。顧客前受は最も安いが、約束した納期を外した瞬間に信用の問題に変わる。
- 機体を自社のバランスシートに載せるかどうかが、資金計画の最大の分岐点である。 サブスク型で提供するなら誰かが機体の代金を先に払う必要があり、その担い手を自社・リース会社・顧客のどこに置くかで、必要な資金量は桁で変わる。詳細はRaaS事業の設計と購入・レンタル・リース・RaaSの選び方で扱った論点と接続する。
- 投資家と金融機関が見ているのは将来の市場規模ではなく、1台あたりの経済性と回収の確からしさである。 「市場が伸びる」は誰でも言える。答えるべきは、1台入れたときに誰の何の費用がいくら減り、その金がいつ自社に入るのか、である。
「良い製品なのに続かない」の正体
ロボット事業の相談を受けていると、事業計画書の中身がほとんど技術と市場規模でできていることがある。どんな機構で、どんなAIを載せ、市場は何年で何倍になる——。それ自体は間違っていない。ただ、その計画書には、最初の10台を作るための現金がどこから出てくるのかが書かれていない。
ソフトウェア事業であれば、開発が終われば複製の限界費用はほぼゼロになる。ロボットは違う。1台売るたびに部材を買い、組み立て、現地に据え付け、立ち上げの人を出す。つまり成長そのものが現金を食う。しかも据付を伴う事業は入金が遅い。発注から部材の支払いまでが1〜2ヶ月、製作と据付に数ヶ月、検収が終わってから支払いサイトがさらに1〜2ヶ月。出ていく金と入ってくる金の間に、半年前後の穴が空く。
この穴は、受注が増えるほど深くなる。黒字でも現金が足りなくなるのは、この一点に尽きる。資金調達とは、投資家を探すことではなく、この穴の形を正確に測り、穴ごとに合った性質の金を当てる作業である。