エグゼクティブ・サマリー
- 導入スケジュールが崩れる最頻出の原因は、機体の性能でもソフトの出来でもなく、建屋側の工事である。 電源の増設、床の補修、搬入経路の確保は、いずれも機体の納期とは無関係に、別の業者の、別のリードタイムで進む。
- 「コンセントがあるから電源はある」は電源計画ではない。 見るべきは分電盤の空き回路、幹線の余裕、同時に立ち上がる機体の突入電流、そして充電ステーションが連続で引く電力である。既存設備との合計で契約電力を超えれば、受変電設備の側まで話が及ぶ。
- 床は「歩けるかどうか」ではなく「荷重・平坦度・段差・材質」の4つで評価する。 特にAMRは、人間が気づかない数ミリの段差や目地、樹脂系の滑る床、ドレン勾配で挙動が変わる。走行試験は満載時の重量で行う。
- 建物設備との連携(エレベーター、自動ドア、シャッター、防火区画の扉)は、機体側の機能ではなく建物側の改修案件である。 発注先も工期も保守契約も別系統になるため、誰が誰に発注するのかを設計段階で決めておかないと宙に浮く。
- 建屋工事は、機体を選んだ後ではなく要件定義と並走させる。 現地調査の結果が機種選定を変えることは珍しくない。「この床では走れないので機種を変える」は、工事してから気づくより圧倒的に安い。
ロボット導入のプロジェクトが遅れるとき、遅延の報告書に書かれる理由は「ベンダーの開発遅延」や「現場調整の難航」であることが多い。しかし実際に日程表を後ろから追っていくと、律速になっていたのは別のものであることがしばしばある。分電盤に空き回路がなく、電気工事の手配と停電作業の日程調整に数週間かかった。搬入経路の途中に幅の足りない防火扉があり、建屋側の改修申請が必要になった。充電ステーションを置く予定だった壁面は、消防設備の前で物を置けない場所だった。
いずれも、ロボットそのものとは何の関係もない。そして、いずれも設計の初期に現地を歩いて測っていれば分かったことである。本稿は、機体の話に入る前に建屋で何を確認し、誰に発注し、どの順番で工事を並べるかを、導入を主導する側の実務としてまとめる。