エグゼクティブ・サマリー
- 予知保全の成果物はモデルではなく、変わった保全計画である。 「故障を予測できた」だけでは1円の効果も出ない。予測を受けて点検周期を延ばした・部品交換を前倒しした・停止を計画停止に振り替えたという意思決定の変化が起きて初めて、効果が金額になる。
- いきなり予知(Predictive)を目指さない。 事後保全→予防保全→状態基準保全(CBM)→予知保全という段階がある。多くの現場は、状態基準保全までで効果の大半を取れる。閾値監視で足りるものにAIを持ち込むのは、費用と運用負荷の無駄である。
- 対象設備は「止まると痛い × 予兆が出る × データが取れる」の3条件で絞る。 全設備を対象にした瞬間にプロジェクトは死ぬ。最初は1〜2設備、故障モードを1〜2種類に絞る。
- センサは故障モードから逆算して選ぶ。 「とりあえず振動と温度を取る」は失敗の典型である。どの部位がどう壊れ、そのとき何の物理量が先に変わるのかを決めてから、測る対象を決める。
- モデルの精度指標より、見逃しと空振りのコストのほうが重要である。 見逃し1件の損失と、空振り1件の点検コストの比率が、そのまま閾値の設定根拠になる。この比率を先に決めていない案件は、運用開始後に「アラートが多すぎる」で止まる。
保全の現場には長い蓄積がある。ベテランが音を聞いて「そろそろ危ない」と言い当てる技能は実在するし、多くの工場と物流拠点はその技能で支えられてきた。問題は、その技能が属人的であり、対象設備が増え、担い手が減っていることだ。
予知保全は、この技能を機械で代替する試みだと語られがちだが、実務的にはもう少し地味である。ベテランが見ていた変化を、測れる量として定義し、記録し、閾値やモデルで拾い、保全計画に反映する——この一連の仕組み化が本体であり、AIはその一部分でしかない。だからこそ、AIの話から始めると失敗する。
RobiZyはロボットもセンサもソフトウェアも販売しないNPO法人である。中立の立場から言えば、予知保全の提案で最も多い失敗は、手段(AI・センサ・プラットフォーム)が先に決まっていて、対象設備と保全計画の変更点が決まっていないことだ。本稿は、その順序を正すための実務ガイドである。